シンポジウム
パフォーマンス課題の作成と実践・評価
――自ら学び、考え、表現する力を育成する新しい外国語教育のために――

 「評価」といえば、単に学生の能力を測ること、単位認定のために成績をつけることと同義であるとの誤解がまま見られます。しかしながら、本来教育における「評価」とは、より良い学びにつなげるためのものであり、適切な観点と方法により実施されるものでなければなりません。今回は、日本各地の大学で外国語教育に携わっておられる四名を講師としてお招きし、パフォーマンス評価をメインテーマとして、シンポジウムを企画しました。新学習指導要領で変わった高校教育と大学に求められる教育の現状や課題を確認しつつ、評価課題の設計、それに対する活動、ルーブリックの活用方法といった外国語教育における具体的な取り組みについて、知識や手法を学び、議論する場になればと願っています。皆さまのご参加をお待ちしております。

日時:2024年3月8日(金)13:30-17:15
場所:Zoom開催(URLは申し込み後にお知らせします)
参加費:無料(要事前申し込み)
言語:日本語

 

スケジュール(敬称略)
13:30-13:35開会の辞 小澤孝一郎(外国語教育研究センター,センター長)
13:35-14:35【基調講演】 境一三(獨協大学,ドイツ語)
新学習指導要領の資質・能力論とパフォーマンス課題・評価
14:35-14:40質疑応答
 休憩
14:50-16:20【実践報告】
14:50-15:20報告1 山崎直樹(関西大学,中国語)
学習者オートノミーのためのルーブリック ―入門期の中国語の授業を例に―
15:20-15:50報告2 中島さやか(上智大学,スペイン語)
授業を活性化するための教案と学習成果の評価 ―12の教案と12のルーブリックの開発プロセスとその成果・課題―
15:50-16:20報告3 金子恵美子(会津大学,英語)
「やりとり」における発話評価 ―タスク難易度と対話者の影響―
 休憩
16:30-17:10質疑応答・全体討論
17:10-17:15閉会の辞 岩崎克己(外国語教育研究センター,副センター長)

 

【基調講演】
新学習指導要領の資質・能力論とパフォーマンス課題・評価 
境 一三 (獨協大学 外国語学部ドイツ語学科 特任教授,ドイツ語)

 現行の新学習指導要領は、2024年度には高等学校の全ての学年で適用され、2025年度にはそれに基づいた教育を受けた生徒が大学に入学する。大学における外国語教育も、そのような学生の能力を十分に伸ばすべく、高等学校との連携の強化が求められる。大学教員も、現在の高等学校でどのような新たな教育が展開しているか、知る必要があろう。

 新学習指導要領の特徴は、資質・能力(コンピテンシー)論を柱として、単なる「知識・技能」だけではなく、「思考力・判断力・表現力」(見えない学力)を身につけ、さらに「学びに向かう力・人間性」を涵養することを目指していることにある。特に、身につけた知識・技能を実際の生活上の課題を解決するために使うための思考力・判断力・表現力の養成は重点的課題である。そのためには、これまでのように知識・技能を育成するだけでなく、社会的課題を具体的に解決するパフォーマンス能力の養成が必要となり、授業の中でもパフォーマンス課題の遂行が必須のものとなる。そして指導と評価の一体性から、その評価も重視される。

 本講演では、資質・能力論とパフォーマンス課題・評価の理論的関係を論じると共に、そのための実践例を提示する。

【実践報告1】
学習者オートノミーのためのルーブリック
―入門期の中国語の授業を例に―

山崎 直樹 (関西大学 外国語学部 外国語学科 教授,中国語)

 学習者のパフォーマンスを評価する手段として、ルーブリックの使用が推奨されることが多い。その理由は、ルーブリックは評価の妥当性や信頼性を高める、事前に学習者に示されたルーブリックは学習の指針となりうる……など、さまざまである。ここでは、それに加えて、学習者オートノミーを高める手段として、ルーブリックを活用する方法を考えたい。

 この視点からルーブリックの良し悪しを考えるとき、次の(1)-(3)の3段階が考えられる。(1)何が評価されるかを、学習者が理解できる、(2)どこまでできればよいかを、学習者が理解できる、(3)何がどこまでできているかという自己評価/相互評価を、学習者自身がおこなえる、である。もちろん(3)が最も「良い」段階である。ここまでできるルーブリックがあってはじめて、評価を、教師という権威に頼らず自分自身でおこなえる。これは学習者オートノミーを獲得するための重要なステップである。

 ただ、日本語話者にとっての中国語学習を考えると、入門期では、学習者自身による評価をおこなうことはハードルが高い。まず、日中両言語の音韻体系の相違が大きいことから、日本語話者が、ある程度、中国語の音声に習熟するまでに時間がかかるため、正確さ/流暢さ/自然さを評価する伝統的な尺度では、学習者自身による評価が難しい。本報告では、そのような尺度とは異なる新しい尺度の提案も含め、学習者オートノミーのためのルーブリックの可能性を考えてみたい。

【実践報告2】
授業を活性化するための教案と学習成果の評価
―12の教案と12のルーブリックの開発プロセスとその成果・課題― 

中島 さやか (上智大学 言語教育研究センター 講師,スペイン語)

 スペイン語教育研究会GIDE (Grupo de Investigación de la Didáctica del Español )は、主に東京とその近郊の大学を中心とする教育機関でスペイン語教育に携わる教員が、授業の質の向上と活性化を目的として教材研究、授業内容・方法、評価の方法などに関して自己啓発を行うための研究会である。

 GIDEのこれまでの主なプロジェクトの成果として、「スペイン語学習のめやす」策定(2015年)、めやすを教室活動に応用するための12の教案集「教室活動への応用」(2019年)、教案の教室活動を通じて達成した学習成果を評価するための評価モデル「12のルーブリック案」(2023年)の発表などがあげられる。

 シンポジウムでは、GIDEがこれらのプロジェクトを実施するに至った背景である、大学におけるスペイン語教育を取り巻く状況と問題意識について簡潔に説明し、具体的な教案及び授業の学習成果を評価をするルーブリックの例を紹介し、プロジェクトを通じて直面した問題、教員間で得られた学びや気づき、成果と今後の課題などについて実体験に基づいた報告を行う。

【実践報告3】
「やりとり」における発話評価
―タスク難易度と対話者の影響―

金子 恵美子(会津大学 語学研究センター 教授,英語)

 ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR: Common European Framework of Reference for Languages)の影響か、近年スピーキングが「やりとり」と「発表」の2領域に分けて議論されることが多い。大学現場にいると、10年前に比べ学生は準備したものを発話する「発表」の訓練はできているが、その場で話す内容とそれに対応した英語を同時に考え出さなければいけない「やりとり」は相変わらず苦手のような印象を受ける。本講演では、「やりとり」を中心に取り上げる。

 「やりとり」のパフォーマンスに影響を与える変数として、まずタスクの難易度が挙げられる。正確な評価のためには、できるだけ正確にタスクの難易度を推測する必要がある。英語教員の経験と勘でできそうに思えるが、タスク難易度の事前評価 (a priori estimate) は非常に難しい。加えて、「やりとり」では対話者(interlocutor)もパフォーマンスに影響を与える。教員が対話者を務める場合は、タスク難易度の事前評価に比べると御しやすい変数と言えるが、そのためには教員が自分の発話をコントロールする訓練が欠かせない。本講演では、これらの2つの変数を考慮しながら、評価しやすい発話の引き出し方とその評価を考えたい。

 

ご案内(PDF)

 

   参加される方は,以下の「参加申込フォーム」から 3月4日(月)までに ご連絡くださいますようお願いいたします。

参加申込フォーム 
お申し込みの受付は締め切りました。

 また,当日は10:30-12:00に2023年度 外国語教育研究センター教育実践研究報告会 を予定しており,参加申込フォームは共通のものになっています。